種を蒔くということ


今日まいて明日育つわけがないだろう

細田守監督の”おおかみこどもの雨と雪”のなかで主人公のお母さんに畑について色々と教えてくれるおじいさんの台詞です。本当にその通りだと共感すると同時に、今口にしよとしている野菜やお米、その他の作物が何ヶ月も管理されやっと食べられる状態になって食卓や飲食店に並んでいることをどれだけの人が想像できるでしょう。

今回から時間を現在に戻して28年度秋収穫のお米の栽培経過を作業ごとに紹介していきたいと思います。

帰国してはや6年、どうにか美味しいお米を作れないものかとそのことばかり考えてきましたが、実は1年目で自分なりの結論はでていました。

それは化学肥料を使わないこと。理由はとても簡単で使って育てた野菜と使わないで育てた野菜を比べると使わないほうが個人的に美味しいと感じるからです。

少し付け加えると、今や無肥料栽培をしている僕がみると、化学肥料を施すことによって作物が異常に早く育ちます。しかし茄子などを比べてみると同じ大きさでも重さが無肥料栽培のほうが重いです。食べてみると身のつまりが全然違うことに気がつきます。肥料分の少ない畑でゆっくり育つことでこの違いがでると考えられます。このスピード感からすると収穫量は半分くらいになるのではないかと思います。そう思うと化学肥料はすごい技術です。ただ僕の場合は”美味しいものを食べるためのあくなき挑戦”ですので無肥料というかたちをとっています。味覚は人によって違いますから逆の人もおられるかもしれません。

フランスでの経験もあいまって科学肥料、殺菌剤、殺虫剤などの農薬、除草剤を使わない無農薬、無肥料のお米作りを始めたわけですが、これがもう大変です。稲の病気や虫対策はクリアできるのですが問題は除草です。従来どおりの行程で田植えをしただけでは、ヒエやコナギといった雑草がたんぼ一面にはえ、どれが稲なのかわからくなるほどになります。

ここに除草剤をほりこんでおけばこれらの雑草はまったく生えてきません。この技術に感心もしますがなんとも不思議で無機質な光景でもあります。

除草剤が無い時代は3回ほど田んぼの中に入り手で取っていたようですが、田んぼの中は歩くだけで大変です。それを腰をかがめて草を取りながら進んでいくのですから重労働です。

この魔法の薬を1度使った農家はもう止められないでしょう。重労働から開放されるのですから。ましてや今の農家のエースは70代。まったく否定できません。

僕もあまりにも雑草がひどい田んぼは手で取りますが、1日やるともう嫌になります。腰がもうやめてくださいと。。。色々な行程で雑草を抑える方法はありますので毎年なんとかして抑えています。

そのようなわけで、無農薬で作物を作ることは雑草との闘いでもあります。

お米の栽培は苗作りから数えると7ヶ月近くかかります。種籾を蒔いて7ヶ月後にごはんとして食べる稲の種ができます。そして次の年、前年の種を蒔きます。こうして日本で水稲栽培が始まって何千年もの間この作業が繰り返されてきました。全ては人が命を保つための作業、種を蒔くということ。

僕はこの誇り高き百姓という職業をこよなく愛するのです。

作り手といたしましては、食べ物を大切にする人が多くいる社会を願いたいものです。

 

次回はお米の種まきを紹介したいと思います。

なお冒頭の写真は今年1番のりで芽を出したキュウリの苗です。

 

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