瞬く境界線


田植えから1ヶ月、移植した苗もしっかりと田んぼの土に根付きゆっくり、ゆっくり大きくなります。とりわけ僕の田んぼは肥料を入れませんから、後から植えられた別の農家の稲にも追い越されていきます。

この時期は分げつ時期といい気温の上昇とともに苗が根元から枝分かれし株を大きくします。同時に30cm、40cmと背丈も伸ばしていきます。このような幼少期の生育はとても重要なはずで、毎年この時期は何か悪いことをしているのではないかと思ってしまいます。

もっと栄養を与えてやれば”早く”大きくなれるだろうに。。。

しかし8月にもなればしっかりとした太い茎と肥料分の摂り過ぎでない浅い緑の力強い稲を前に、そんなことはすっかり忘れています。初期の生育スピードは結果的にあまり問題ない(少しある)と言えます。この不思議は感動と何か毎日の色々な生活のヒントを与えてくれるような気がします。

即効性のある科学肥料を使う農家がほとんどの中で、それと比べて不思議に思っているだけで一昔前はたいして不思議でもなかったかもしれません。

いきなり”となりのトトロ”の話になりますが、自転車3人乗りでお母さんの病院にいく場面があります。家を出てすぐおばあちゃんが大勢で田植えをしているのですが、植え付けている苗をよく見るととても長いです。トトロの時代設定は昭和30年代らしいので60年ほどでお米の作り方もずいぶん変わったことになります。アニメなのでどこまで忠実かはわかりませんが(駿さんを信じる)、現在一般的な農家は小さい苗を3、4本、場所によれば5、6本植わっているところもあります。

これは田植え機の登場で効率よくミスなく植えようとした結果で、株元が密になりすぎ風通しが悪く病気がでやすくなります。そして化学肥料とセットで農薬散布なしでは作れなくなります。これにより病害虫に弱い品種は美味しくても農家から敬遠されるようになりました。効率よく量を多くとることに重点をおいた生産の代償は少なくないと思います。

ここ神吉では梅雨の時期に蛍がたくさん見ることができます。しかし集落全域ではなく一定の場所でしか見れません。蛍のいる場所で肥料や農薬を使っている田んぼかどうかがすぐにわかります。見事に境界線を引いて瞬いています。彼らはとても敏感でそこでは生きづらいことをよく知っています。

そしてそれを一番わかっているのは農家なのです。年配の農家の方から昔の田んぼは色々な生き物がいたとよく聞きます。それがなぜいなくなったのかもわかっているのです。しかし戻れない。いろいろな思いが錯綜し、理由はたくさんあるのですが今日はここまでにして、蛍が瞬く田んぼが集落一面に広がればどれだけ綺麗だろうと思います。

枝分かれしていく稲を眺めながらそんなことを想像します。今年はもう蛍の季節は終わりましたが、見たい方はまた来年神吉にお越しください。とても幻想的です。

写真がうまく撮れなかったのですが蛍の光です。

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